大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1672号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人本林譲の上告趣意について。

原判決が引用している證據によると、被告人が賭博をする目的で山本寅藏方の座敷を借受け、原判示第一事実記載のように菊池幸作外十数名をして骨子六個を使用し金銭を賭して。俗に「六粒狐」と稱する方法による賭博をなさしめて、勝った者から寺銭を徴収した事実を認めることができる。辯護人は、右の寺銭について、それは被告人その他の遊戯者が、その共同遊戯をするに必要な場所及びその座興を添えるために必要な酒肴の費用を勝負の勝利者から一定の歩合で取立て、そのために費消したものであって、被告人には當初から自己に金銭的利益を得ようとする意思があったのではないと主張している。なるほど、原判決の擧げている證據によれば、被告人は集めた寺銭のほとんど全額を宿代酒肴代、等に費消して、結果的には自己に利得していないことを窺い知ることができる。

しかし、賭博の寺銭というものは、事前に一定の金額を豫定して、その金額に達するまで集金するものではなく、勝負の都度、勝利者の取得する金銭中から一定の歩合で取立てるものであるから、その金額は不定であって、その場で行われる賭博の回數、賭者の人數、賭金の多少等によって變動する。これらが多ければ多いほど寺銭も多額となり、從って共同遊戯に必要な費用を支辨した殘額は寺元の利得となるのである。されば、現実の結果としては、寺銭の額が必要な費用の支辨に盡きたとしても、それをもって寺元に圖利の意思がなかったものということはできない。それ故、原審が被告人の原判示第一の所爲を賭場開帳圖利罪と判斷したことは正當であって、原判決には所論のように虚無の證據によって事実を認定した違法はない。なお、本件の賭場開帳について、被告人の外に他に共謀者があったとしても、被告人は賭場開帳圖利罪の正犯であることには變りがないのであるから、被告人に對する公訴を他の共謀者に對する公訴から分離して、原判示のように審判したからとて必ずしも違法ではない。

よって、上告を理由のないものと認め、刑事訴訟法施行法第二條舊刑事訴訟法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例